世にも奇妙な旅のはじまり
STORY
高校生の〈ユウキ〉は、自宅の庭に祖父が建てた物置に半ば引きこもっている。
部活は辞めた。進路は見えない。
高床に作られている物置には、電気も家具もある。
通販サイトでポチっとすれば、宅配も届く。
雨が強く降るある夜、近所には避難警報も出ていたがユウキはずっと物置にいた。
夜が明けると、周囲は一変していた。
物置ごと見知らぬ場所に移動したようだ。
ユウキが住む物置は、無人島や戦場をさまよい旅をする。
フリーターの〈レナ〉は、とある仕事に採用される。
「ただ押すだけ。誰でもできる簡単な仕事」だ。
部屋のような大きな何かを、ひたすら押す、行先はわからない。
レナもまた、あらゆる場所を転々と旅をする。
上の世界のユウキ、下の世界のレナ。
見ず知らずの二人の世界が関わり合い、
やがて二人はそれぞれの一歩を踏み出した。
MESSAGE
高校生の時でした。初めて乗った夜行の高速バスでは消灯時間を過ぎても眠れるはずがなく、カーテンを少し開いて外を見ます。高速道路の向こうに光る街はどこかも分からないまま後ろに流れていきますが、驚いたのは次々にすれ違っていく大型トラックです。真夜中に、いつもはわたしがベッドで深い眠りにいる頃に彼らは走っている。血液がからだのなかを巡るように、さまざまな地域のあいだを多くのトラックが行き交いモノを運んでいる。眠っているときには気づきようのないことです。幸いだったと思っています。その夜行バスで眠れずにいたわたしはそのカーテンの隙間に絶えず動き続ける世界を目の当たりにしたのでした。
見えるところまで、聞こえるところまでが自分にとっての世界のすべてだとわたしたちは思い込みがちです。その先にも世界は広がっているのですが、それは頭ではよく分かっているのですが、日々の生活に追われていると見えないところに目をこらし、聞こえないものに耳をすます余裕はなくなります。また、例えば町ですれ違う見ず知らずの人が、実は昨日わたしが食べたコンビニのおにぎりを作った人かもしれない。例えばそのコンビニでおにぎりをわたしに手渡した店員は、今日には海外に飛び立っているかもしれない。さまざまな「かもしれない」を考えている暇もわたしたちにはありません。けれどもそうした余計なことを省いた結果、知らず知らずのうちに自分の世界は狭くなって、価値観やモノの考え方も窮屈になっていきます。
演劇を観るということは、普段は見えないもの聞こえないものに向かい合う機会です。「かもしれない」想像を自由に巡らせることが許される時間です。そして『クローゼットQ』は旅の物語。窓越しに見える世界とさまざまな人との出会いによって登場人物たちの当たり前が見つめ直されます。自分が知らないところでも人は生きていて、世界は動き続けている。名前も知らない誰かの存在が今日を生きるわたしを支えているということ。
あのときカーテンを開けることなく眠っていれば気づくことはなかった世界の「ほんとう」。ちょっとした好奇心が自分の世界を広げてくれることがあります。『クローゼットQ』がご覧いただく皆さんのいつもどおりの世界を刺激できれば幸いです。
上演時間 | 95分(休憩なし) |
構成人数 | 7名 |
準備時間 | 4時間30分 |
片付け時間 |
2時間 |
スタッフ |
脚本・演出:田辺剛(下鴨車窓) 美術:乘峯雅寛 音響・音楽:ノノヤママナコ 照明:御原祥子 衣裳:さくま晶子 宣伝美術デザイン:伊藤祐基 写真:服部義安 映像:山内崇裕 |
キャスト |
大谷勇次 下出祐子 内田成信 宮腰裕貴 鷲見裕美 山内周祐 髙島絵里 |
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